Maker Faire Tokyo 2026 当日編

Maker Faire Tokyo 2026 の会場で、出展者と来場者が「Maker Faire Tokyo」の横断幕を囲んで手を上げている集合写真。上から見下ろした構図

写真提供:株式会社インプレス/撮影:ただ(ゆかい)

Maker Faire Tokyo 2026 に出展してきました。持っていったのは、球体型ロボット omicro Flux、それを iPad ごしに見る複合現実アプリ Boundary Blur、そして iPad と Bluetooth でつながる触覚デバイス Boundary Touch です。3つで1つの展示になっています。

展示したものの紹介と、物理シミュレータ MuJoCo で姿勢制御を作り直すまでの話は、準備編に書きました。この当日編では、9月5日・6日の2日間にブースで起きたことを書きます。

当日の展示

当日は両日とも雨でした。会場は空調が効いていたようで涼しかったのですが、扉を開けると湿気でとても暑かったです。

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準備編に書いたとおり、姿勢制御は展示の直前まで作り続けていました。シミュレータの上では見通しが立っていました。ただ、実機を会場の床で2日間走らせ続けるのは、また別の話です。

結果から書くと、その姿勢制御そのものは、基本設定をオンにしておけば、目を離していても大丈夫なくらい安定して動いてくれました。ハードウェアは期待以上でした。やっと、ロボットの動きが Boundary Blur のインタラクションに近づきました。

シミュレータで詰めたものが実機でそのまま動いたのも、大きな収穫です。決めきれない値に幅を持たせたモデルが、実機の代わりとして使えるという手応えがありました。この先は、ロボットが手元になくても開発を進められます。

「球体型ロボット、なんか以前と比べてぬるぬるしてませんか?」と気づいた方に言っていただけたのが嬉しかったです。3D モデルを全て見直した成果で、なかでも補助輪の見直しが効いていました。

来場者の方の「こうじゃないの?」に対して、事前にシミュレーションして実機で検証した結果を持って答えられました。倒立振子と球体型ロボットのハードウェア特性の違いまで興味を持って聞いてくださった方には「面白い話が聞けた」と言っていただけました。

Maker Faire Seoul 2024 から苦労していた球体型ロボットの検出も、YOLO を使ったことで2日間ほぼ問題なく動きました。従来の、明暗で切り分ける検出は一度も使う機会がありませんでした。初物だった Boundary Touch も、1日目は展示し切ることができました。動作は安定していました。

触覚デバイスへの反応

初手のつもりで出した Boundary Touch は、触覚を仕事や研究で扱ってきた方たちに見つけてもらえました。

触覚は人によって感じ方が違います。今は玩具や XR デバイス(VR や AR の機器)に高性能な触覚デバイスがあふれています。バイブレーションアクチュエータを触ってこられた方も、想定より多くいらっしゃいました。その経験談をもとに、こういう研究がある、このケースならこの実装がいいのでは、と教えていただきました。課題がより明確になり、自分の中にない解決策も見つかりました。

姿勢制御や MuJoCo、触覚は、詳しくなってから展示するのではなく、詳しくなるために展示に出したものです。最低限のものが形になったことで、その分野の専門家の方から意見をいただけるようになりました。少し大変ですが、得るものは大きいです。

来場者との交流

2日間、たくさんの方に来ていただき、展示を体験していただけました。

その中に、3年前から来てくれている女の子がいます。2年前にも来てくれて、去年はお休みで、今年も家族と一緒に来てくれました。毎年 Boundary Blur を楽しんでくれていて、複合現実アプリの中で遊びを考えて、穴が開くまでハックしてくれます。今年も素敵なお手紙とお菓子をいただきました。

この作品は、展示に来た子供たちがロボットの周りに物を置いて遊び方を考え出したところから生まれました。同じことが、いま画面の中で起きています。

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技術を面白がれる人にはハマる展示で、子どもが3度リピートしてくれるケースもありました。手を挙げて操作デモをしていると、自分がやっていても来場者がやっていてもお客さんが来ます。球体型ロボットが止まっていると来ません。

体験に没頭した方が、最後に iPad の中へ手を突っ込もうとすることがあります。その方は謝ってくださるのですが、こちらは「やったー、狙い通り」という気持ちになります。現実とバーチャルの境目が、その人の中でぼやけた瞬間だからです。この瞬間が見たくて作っています。

ロボット、複合現実、機械学習、触覚、スマホアプリ、倒立振子、電子工作、M5Stack と、いろいろなクラスタの方に声をかけていただき、楽しい議論ができました。展示仲間にもたくさん会えて、挨拶ができました。

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ブース運営

今年もワンオペで、2日間トイレ休憩の3分以外はブースを離れませんでした。健全ではないですが、いつ立ち寄っていただいてもブースに人がいる状態にしておきたかったからです。説明の途中や故障の途中で対応できないケースは当然たくさんありました。体力は事前に鍛えていたので、体調を崩すことなく、しっかり余力が残っていました。

前回の展示で困ったことへの備えも効きました。新しく追加した電池の残量表示は、とても便利でした。電池ホルダーが断線しましたが、予備部品をコネクタ込みで用意していたので、以前の反省を活かせました。

課題

うまくいったことばかりではありません。ロボット本体には、次の問題が残りました。

  • 再起動や突然の停止が多くありました。基板は今年6月の NT金沢2026 から変えていないので、前日に書き換えた姿勢制御が末端の動作に影響している可能性が高いです
  • ロボットと iPad をつなぐ Bluetooth の切断が両日とも多く、特に午前中に多いなど、時間帯でムラがありました
  • 2日目は、会場の床が凹凸のある金属板(縞鋼板)の場所で姿勢制御が微妙に乱れ、突然急加速することがありました。板の振動と、床面が不規則なことが原因です
  • 左後ろの車輪が外れやすいこと、補助輪のシャフト径が一部小さい可能性、電池の劣化、方位のずれも残っています

縞鋼板の件は、シミュレータで詰めきれていなかった部分でもあります。準備編で、走行環境は決め打ちにできないと書きました。会場の床は、想定していた範囲の外でした。

Boundary Touch は「熱い」という声を多くいただきました。触覚の強い・弱いの感じ方や着用感は個人差が大きく、柔らかさの表現もまだできていません。1軸の振動で表現している以上、柔らかさが苦手なのは分かった上での選択でしたが、やはり指摘されました。没入感が足りない、一部の触覚が感じづらい、という声もありました。バンドにしてはどうか、視覚表現とセットでグラス型にしてはどうか、というご意見もいただきました。指摘はその通りだと思います。

Boundary Blur は何度か固まって、再起動が必要になりました。Unity 6 に上げた影響の可能性が高いです。YOLO を使うために上げたバージョンが、別のところで足を引っ張りました。設定画面で毎回オフになる設定もありました。

展示のしかたにも宿題が残りました。準備編に書いた前日設営のレイアウトが、そのまま響いています。「デモをしていないと見逃してしまう」というご意見をいただきました。ブースの前に三脚と iPad を縦に置ければ解決できることは、過去の経験で分かっています。ただ今回はテーブルが場所を取っていて置けず、横置きにしました。お客さんが来る方向と展示の向きがずれてしまい、気づいてもらえないケースが多くありました。テーブルなしで展示するのが正解だったかもしれません。

Boundary Blur や Boundary Touch を体験していただくと、球体型ロボットには目が向きにくくなります。3つで1つの展示なのに、全部を説明できる機会は限られました。特に前半は、予期せぬ不具合で故障中の状態でお待たせしたり、お立ち寄りいただけないケースが多くありました。

新作はあったものの小規模で既存作の一部だったため、体験して新鮮に感じていただけるところまでは届きませんでした。Boundary Blur も、問題解決型のプロダクトを期待する人には魅力が伝わりにくい展示です。

他のブースを見て回る時間も取れませんでした。

今後の改善

前半に多発した不具合は、次の展示までに解決したいと思っています。再起動と突然の停止は、前日に書き換えた姿勢制御まわりから疑います。縞鋼板の上での急加速は、実装側で対策を考えます。来年は硬くて軽量の板を展示環境に敷きます。

球体型ロボットをつまんで持ち上げたいという要望が多かったので、それを作ります。今の姿勢制御ならいけます。omicro Flux の自動操縦も、もっと展示エリアを回るように、ワンパターンにならない動きを考えます。

Boundary Touch の発熱、着用感、柔らかさの表現、感触の個人差は、展示を通して順番に切り分けていきます。柔らかさを変えられる緩衝材を入れることも検討します。初手として出したので、ここからが本番です。

ブースのルールの中で、iPad をお客さんが来る方向に向けられるレイアウトは、来年までの課題です。既存作をアップデートしつつ、別の新作も並行して考えます。

振り返り

いろいろな仕事で使う機会のない技術の素振りをするのが楽しくて、それを拾ってリアクションしてくれる人がいるので、毎年「今の自分の最高のものを展示しよう」という気分になります。今年もそのつもりで、技術的にも背伸びして、今出せるものを出しました。6月の NT金沢2026 からでも、自分の中では大きなアップデートがありました。MuJoCo、物体検出、姿勢制御、触覚、そして iPad から触覚デバイスへ Bluetooth でイベントを送る仕組みです。

それが全てのお客さんに伝わったかどうかは微妙でした。それでも、議論や体験してもらった経験から、今関心のある技術の使い方のヒントをもらえました。自分と自分のブースに関心を持ってくれるお客さんが見たいものを作る。そこにフォーカスして作り、展示することができました。

もっと広い範囲のお客さんに注目してもらう展示もできるかもしれません。多くのお客さんが求めるノスタルジーやストーリー性は、自分の展示にはまだ足りません。それでも、これまで育ててきた技術を磨いて、さらに領域を広げていくものづくりの仕方が自分のやりたいことで、性に合っています。自分の「面白い」を継続していきたいです。

展示した作品は、omicro.tokyo にまとめています。

Maker Faire という場所

Maker Faire のありがたいところは、毎年、自分の現在地を知り、初心に帰れることです。すごい作品を作るみなさんから刺激を受けて、「自分もまだまだ腕を磨こう」と思えます。Maker Faire に出会っていなかったら、狭い範囲の技術だけで満足して、もっと早く作ることに飽きていたかもしれません。今年で10年目ですが、毎年たくさんの刺激をもらっています。本当にありがたい場所です。年齢やジャンルの壁も越えて、生涯現役で作り続けていきたいです。

おわりに

雨で足元が悪い中ブースを訪れてくださった皆さん、運営の皆さん、出展者の皆さん、ありがとうございました。